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キンドルで「私の身体史」を出版しました。

→ 私の身体史 Kindle版

10年位前に「身体論」の序章として書いたものなので、あっさり目です。
今ならもっと密度濃く書くと思うけど、これはこれでいいかなとそのままにしました。

「身体」は市場が出来ていないということで、
この原稿も陽の目をみることがなかったけど、
今はありがたいことに電子出版というものがあり、誰でも本が出せる。
稽古に来ている生徒さんが出版の骨を折ってくれました。
嬉し恥ずかし私の個人史です。
数年前に押井監督に読んでもらったところ、
「読んでいて体が震えるほど戦慄をおぼえた」と大絶賛でした。
興味ある方はご購入ください。短いし安価でございます。
ささやかであっても社会性を持てるのは嬉しいものですね。
よろしくお願いいたします(._.)

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死の舞踏 (言語作品)


舞台に立つ前に、一同は静かに語り合いながら食卓を囲んだ。これが私達の劇団の最後の舞台となるのだ。今夜の舞台は一夜かぎりのワン・ナイト・ショー。そしてこの食事は最後の晩餐である。
役者たちはすでにメーキャップを施し、舞台衣装を身につけていた。騎士、貴婦人、ピエロ。これは宮廷恋愛劇だ。かく言う私も貴婦人のひとりであり、丈の長いおおげさなドレスを纏い、ていねいに化粧し、総仕上げに血の色のルージュを塗っていた。
今ここに、食卓を囲むすべての者が強さと聖性に満ち、神か天使にも似て、完全で欠けているものがなかった。舞台に立つ直前の役者とはそうしたものだ。
だが、それだけがこの食卓を、厳粛な最後の晩餐にしているのではなかった。全員に今夜の舞台に対する悲劇的な予感があったのだ。犯罪の予感だろうか ? 誰にもこの予感の根拠はわからなかったのだが。

一同がぐるりと囲んだ円卓の中心には、夜の空気を濃密にする水仙が白磁の器に活けられていた。水仙と私たちは密かに、互いに遠ざかりつつ契約を果たした。すべて距離というものは近づくことではなく、遠ざかることで互いを見出す。水仙は私たち人間との関係に呪縛され、みずからの香りに苦しんでいた。私たちは水仙に近づくほど遠ざかっていくのだった。契約は遠ざかりつづけた。そして不吉な予感は高まり、私たちはしだいに落ち着きをなくしていった。覚えた台詞も忘れてしまうかもしれない。心臓の鼓動がみずからの鼓膜を揺さぶる。

その時、「このなかに悪魔がいる。」という情報がどこからともなく流れた。誰が最初にそれを口にしたのか、まるで大地から静かに泉がわき出るようだった。
私は前後不覚なほど怯えた。その悪魔とは私ではないのか。ドレスを引き裂けば、背中か太腿に青黒いそのスティグマが刻まれているのではないか。生あるものの罪責感が私を襲った。
だが私ではなかった。悪魔は軍人姿の男の役者だった。意外だと誰もが思った。彼が悪魔だとは。
しかし私は彼が悪魔だと自分が知っていたことに気がついた。こんなことが起こることも知っていた。いつかは恐怖の瞬間がおとづれずにはいない。悪魔そのものへの恐怖でもなく、意外な者が悪魔であったことへの驚きでもなかった。ただこの場のこの事実この状況が私たちをパニックに突き落とした。それは力の顕現だった。

正体のばれた男は私に近づいてきた。私は立ちあがり、男の真正面に向かい合い、まっすぐにその顔を見た。これが私の「唯一の男」だ。非―人間。この男に恋した。悪魔だから恋した。恋した男が悪魔だった。私が恋したからこの男は悪魔になった。これらは同時に起こった。どれもが原因でもなく結果でもなかった。どれもが原因であり結果だった。この恋を受け入れることは死を意味した。追い詰められ逃げ場を失った小動物のように、恐怖の頂点で私はすべてを受け入れた。
この男を前にして私は、選ぶことも判断することもなかった。目によってでもなく言葉によってでもなく私は「肯 -Yes」と応えていた。男もまた私の返事を知っていた。満足した悲しい笑顔をうかべた。そして大きく翼をひろげる鷲のような姿で私を受け入れた。このなりゆき全体が芝居がかっていた。私の化粧とドレスはこのためだったのか。男の軍服はこのためだったのか。それともこれは、今夜の本番の舞台のためのリハーサルなのか。私の体のなかで快楽と恐怖がじりじりと高まっていく。緊張のあまり硬直した体を男が包んだ。衆目のなかで私はこの男の餌食になるのだ。やすやすとワナにはまった女の人格は貧しく、男ははるか昔から致命傷の傷を負っていた。

男と私には道行が許されていた。死にいたる歩行を演じなくてはならなかった。それがこの場における全員による暗黙の了解だった。団員たちは今夜の本番の舞台を忘れてしまったかのように、この状況に吸い寄せられ、ぐるりと男と私を囲んだ。悪魔である男は「男」を演じ、私は「女」を演じる。ひと組の男女による死の舞踏のはじまりだ。
向かい合った私たちは互いの手をとり挨拶をかわした。次に男は私の襟元から手をすべりこませ乳房に手をあて、すべての男がするように真剣に攻撃的にその手を動かした。巧みな動きをしながら男は「痛いか」と訊いたようだ。はじめて私は口をひらいた。「いいえ、もっと強く。もっと痛く」
このプレリュードの愛撫がおわると、道行の前に、私はこの「唯一の男」ではない「もうひとりの別の男」とワルツを踊らなくてはならなかった。この段取りも又この場にいる者たち全員の暗黙の了解だった。私たちは本番から遠ざかりつづけた。
私は「もうひとりの別の男」と向かい合って立った。ワルツなど踊ったことがない。男は私の腰に手をあて巧みに誘導した。音楽に乗って私たちはなめらかにすべるように、光るフロアーに滑り出た。踊りの経験のない私の動きはぎくしゃくしていた。すると「唯一の男」がいつの間にか私の傍らに影のように寄り添い、私を誘導しはじめた。「唯一の男」は今は私以外の者には見えないのだった。だんだんと私の体はしなやかに舞う。ワルツなのだが時折、タンゴ風に足をからませたり、蹴りあげたりしはじめ、しだいに滑稽さをも帯びてきた。タンゴはどこか血の匂いがした。滑稽さのために今度は悲痛になってきた。足を挙げるという、この胸を突く動きの度に、足先の空気に押されるように見物人のあいだに小さなどよめきが起こった。私たちはくるくると円を描きながら踊った。


続く

詩作品

 詩作品 1



   蒼空の下
   可憐に蛇の舌 裂ける
   サルビアのごとく赤く


   お前 神の脇腹
   空費の序列の先頭に位置する者


   砂漠で機織るごとく
   その交接の音はたちのぼる 





詩作品 2



   くらい夜の寝床で目をとじている。
   まくらもとの花瓶からツバキの花が落ちた。畳の上。


   
   ツバキの花が落ちた。永遠の拒否のように。


    
   
   「私をはかるな」と。





 詩作品 3



    インセストの風は南から吹く


    遠い昔または遠い未来から吹く風の話

   
    底なしの深い谷から上天へ吹き上げ するどい旋風となって人々の胸を横断する


風の物語


    それはヒトになる前の胚の話


    それは宇宙の謎のように 永遠に目に見えることはないモノ の渦巻く音


    その記憶は人々の深いアイデンティティとなるだろう


    地球の大気をかき乱す季節風のように地球の内部にも風が起きた


    そして目に見えることはないのにあきらかに感じられる皮膚の音韻


    聴こえない音響が後頭部を撃つ


    その悩ましい響きが私を踊らせる
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Author: 最上 和子
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